対談
Interview
今回のnoteインタビューでは「越境ECの税務」に取り組まれている公認会計士・税理士の小柴さんに、越境ECで気をつけるべき税金のポイントについてお話をうかがいます。国内とくらべ売上の10%もプラスのキャッシュフローがある海外輸出。配送や物流手段によって税務の注意ポイントが変わるため、理論から実践的な方法までくわしくお聞きしました。
世界へボカン株式会社代表 徳田祐希(以下徳田)
簡単に自己紹介をお願いします!
公認会計士・税理士 小柴健右(以下小柴)
会計士として10年前にキャリアをはじめ、2014年3月に税理士として開業しました。当時「越境EC」という単語はあまり有名でありませんでしたが、海外AmazonやeBayに特化した税務サービスを今日まで提供し続けております。なので「越境ECに関する税務」についてはかなり詳しく把握しており、本日はその重要なポイントをご紹介できればと思います。
徳田
越境ECの税務をわかっている人、ほとんどいないと思うんですよね。
小柴
そうですね、税務は基本「過去の判例」にもとづいて同じ処理をしていく、という流れなのですが、「越境EC」という単語自体できたのが最近なので、どう税務対応すべきかのノウハウが税理士協会で溜まっていない状態です。つまりショップ運営者(セラー)さんだけではなく、税理士にとっても「海外通販向けの税金」は近年に確立したものなので、判例もないんですね。そんな状況でも間違わないように処理をしていかないと、結構なキャッシュメリットが失われますので、要注意です。
徳田
なるほど。僕ら本当に日々「越境EC」に取り組むマーチャント(売り手)さんや海外BtoBマーケティング、製造業の海外進出なども支援させていただいているので、クライアントにぜひ紹介したいなと思います。
小柴
ありがとうございます。
徳田
ではさっそく実際に「越境EC」に取り組む際にどういった「税務」で気をつけるポイントがあるのでしょうか?
小柴
輸出になりますので「消費税の還付」が大きなメリットになります。
国内の販売であれば決算後に消費税の納税が必要ですが、越境ECは「輸出」なので逆にお金が返ってくるんです。決算が終わって税務署にお金を納税するのではなく、逆に税務署からお金が返ってくるのが、1番のキャッシュメリットです
ただ「消費税の還付」ではお金を国から会社に返すため、かなり特例的なルールがあります。その決まりにきちんと対応しないと、後々の税務調査でNGが出て、一度還付されたお金が数年後「やはりダメ」と判断されてなんと「延滞税込みで」払う必要がある可能性もあるんです。
なのでこの記事を読まれている越境ECの運営担当者に、その消費税還付を受けた後に戻さず、仕組みの恩恵を確実にうけるためにどんな方法があるかをご紹介できればと思います。
徳田
今なら消費税10%が戻ってくるんですよね。
小柴
そういうことです。
徳田
つまり1億売ったら1千万戻ってくる可能性があるってことですね。
小柴
おっしゃるとおりです。
徳田
これ知らないとまずいやつじゃないですか。
小柴
ええ、これをきちんとやらないと本当にもったいないです。
徳田
「越境EC」はただでさえチャレンジングです。どこで利益を生むキャッシュポイント作るのかを意識しないとなかなか続けられないので、正しい知識をもって取り組みたいですよね。
徳田
そんなお得な還付ですが、具体的に何をすればいいのでしょうか?
小柴
そのまえに「消費税還付」でどれだけ数字の違いが生まれるかの話をしましょう。下記の図が売上10億円の税金シミュレーションで左が「国内販売の税金額」右が「海外販売の税金額」です。
売上10億円に対してかかる消費税は10%なので1億円、仕入れ経費8億円にかかる消費税が8千万円。国内では売上の消費税1億から仕入れの消費税8千万をひいた「2千万円」が決算後に納税する消費税です。
ところが海外販売では、この計算が全然変わります。売上にかかる消費税がゼロ円になり、仕入れ8億円で払う消費税8千万円が戻ってくるので、結果的に8千万の還付が受けれます。
同じ売上10億円でも2,000万円納税する国内と、8,000万円の還付が受けられる海外。比較すると約1億円ぐらいキャッシュメリットが変わってきます。
徳田
国内では「2千万」納税しなきゃいけないけども、海外なら8千万円還付され、差し引きで1億円も得する可能性があるという話ですよね。
小柴
これを受けるためには「輸出販売を証明する書類」が求められます。輸出する方法は大きく分けて2つあり、ひとつは国など公的配送会社が提供している「国際郵便」と民間配送会社が提供している「クーリエ」ですが、書類の準備方法は3つあります。
日本郵便が提供している「EMS」などの国際郵便では、請求書の金額(インボイスバリューとも呼ばれる)が20万円超と20万円以下で分かれます。
1.国際郵便で20万円超の場合、通関の時に「輸出許可書」が発行されます。これがそのまま「輸出を証明する書類」になります。
2.国際郵便で20万円以下の場合、かんたんな郵便通関になるため輸出許可書が税関から発行されないんです。
3.FedExやDHLなどの民間業者が提供している「クーリエ」の場合、請求書の金額に関係なく「輸出許可書」が税関から発行されます。1のパターンとおなじく、この許可証自体ががそのまま「輸出を証明する書類」になります。
徳田
国際郵便では商品の価格が20万円超か以下で、証明書が発行される・されないに分かれるんですね。...発行されない「国際郵便で20万円以下」は結構危険なのではないでしょうか?
小柴
はい。本来準備すべき「証明書・許可書」がないので会社の「会計の帳簿」などに記入することになりますが、そのルールが結構厳しくて。
「A国のBさんに、商品CをD個売った」という販売データをすべて記帳して管理する必要があるのですが、この正確な管理が大変です。ひとつの対応方としてはAmazonやeBayの管理画面で「すべてのオーダー」のデータを出し、それをベースに帳簿を作るやり方です。
徳田
なるほどなるほど、国際郵便で少額の場合、Amazonやebayセラーの管理画面などをベースに、販売データの帳簿を自社で作らなきゃいけないんですね
小柴
おっしゃるとおりです。
徳田
FedExやDHLなどの民間配送業者「クーリエ」の場合は輸出許可書がもらえるんですよね?
小柴
ここは少し注意が必要です。基本は発行してもらえますが、消費税の還付が必要ない方もいるので、こちらからクーリエの営業担当者に発行して欲しい旨を伝える必要があります。
輸出許可書のサンプルはこちらです。このサンプルの輸出者名義は黒塗りにしていますが、本来であれば会社の名前とご住所が記載されます。
余談ですが、輸出許可証はきちんとファイリングして保管しておくことが重要です。たとえば3年後に税務署がきたとしても、輸出許可証のファイルの束を渡すことによって「この会社はきちんと管理をしている」と、非常に印象良く感じてもらえます。
小柴
1点だけ輸出許可証には重要なポイントがあります。物流会社やクーリエと直接契約している場合は、輸出者名義が自社になりますが、代行会社さんを通す場合は「輸出者名義」が自社にならない場合があるんです。
徳田
自社名義でないと、還付は受けれないのでしょうか?
小柴
全然違う会社名の許可書では税務署の方も「なにこれ?」となってしまいます。でも解決策はあります。それが「消費税輸出免税不適用連絡一覧表」という長ったらしい名前の文書になります。かんたんに説明すると「輸出許可証では代行会社の名義になっているけれども、実際に発送したのは弊社です」と税務署へ証明する書類です。
徳田
なるほど。こちらは物流業者さんに「書類を発行して」と依頼する感じですか?
小柴
いえ逆ですね。自社から代行会社さんに書類を作って渡す形です。
徳田
なるほどなるほど。
小柴
輸出許可書を毎回代行会社さんからきちんともらい、その中で「輸出者名義」が自社でないものをリストにして、「消費税輸出免税不適用連絡一覧表」をつくり、1ヶ月ごともしくは毎回、代行会社さんに渡す形です。
徳田
コロナのタイミングでEMSが止まってしまい、FedExやDHLなどの物流会社・輸出代行会社さんを通して契約する方は増えていると思います。そういった時に、輸出許可証の「消費税輸出免税不適用連絡一覧表」の存在を知らないと還付で損をしてしまう可能性がある訳ですね
小柴
おっしゃるとおりです。これはかなり難しい「越境EC特有の論点」なので、きちんと理解した上で日頃の業務フローに組みこめるかによって、 損得が大きく変わってきます。
徳田
この辺わからないと本当に「書類どこにいったんだろう?」となると思いますし、税務調査の時に本当に慌てちゃうと思うので、事前に小柴さんに相談していた方がよさそうですね。
小柴
これは事前の毎回の対応が重要なので、できればお願いします
徳田
越境ECはじめる前や、もうはじめている人だったら現段階で相談してみて、現状の書類がオッケーか確認してもらうだけでもいいかもしれないですね。
小柴
それはしたほうがいいです。税務に関しては常にどういった書類を準備するかを把握して、毎日の作業ルーティンに組み込むことが重要なので。もし仮に上記の書類の処理ができていないと、1年後2年後に気づいても取り寄せられることは難しかったりします。これは税務的には大きなリスクになので、きちんと業務フローに組み込む形で対応するのが理想です。
徳田
こちらスタートするのがいいタイミングはあるのでしょうか? 1期を終了したタイミング、もしくは事業はじめる前が1番いいですかね?
小柴
理想は事業をはじめる前ですね。国や越境ECモールによって準備すべき書類が変わってきますので。事業の内容ご相談いただければ、必要な書類リストをお渡しすることはできます。
徳田
なるほど、ではボカンがお客さんから相談いただき越境ECサイトの調査・戦略立案して構築、独自ドメインやモールなどを使ってこれから運営開始!というタイミングで小柴さんに相談すると「モールならこんな書類を用意してください」「独自ドメインのサイトで配送手段が〇〇なら、この書類を管理してください」というアドバイスをいただける訳ですね。
小柴
おっしゃるとおりです
徳田
なるほどわかりました。もうサービスに組み込んだほうがいいじゃないかなとすら思ってきました(笑)
小柴
ありがとうございます。で、せっかく越境ECモールの話が出てきたので、どんな書類を準備するべきなのか少し紹介したいと思います。
徳田
具体的にAmazonやeBay, 楽天などでの対応方法ですね。
小柴
ええ。たとえばAmazonのケース。国内ECモールと海外ECモールの大きな違いは「トランザクション・コミッションのフィー」、いわゆるプラットフォーム側の手数料です。こちらは商品が売れてから何十%などと徴収される形ですが、国内では通常その手数料が消費税の還付対象になるんです。
国内の場合、たとえば楽天は日本の会社なので、その金額は当然消費税の対象、還付対象になってきます。
海外の場合、AmazonやeBayなどついては海外の会社であるため、そのコミッションに関する「消費税還付」を受けるためには特殊な書類を準備する必要があります。Amazonであれば請求書「インボイス」がセラーセントラル(管理画面)からダウンロードできます。このデータの形に対応した帳簿を作っておかないと消費税の還付が受けられません。
徳田
コミッション(手数料)はそこまで大きな影響があるんでしょうか?
小柴
ええ。数字のインパクトを試算してみましょう、たとえば海外Amazonで月商1,000万、年間売上が1億2,000万ほどのお客さんがいたとします。Amazonの場合、およそ15%手数料がかかります。その15%のうちの10%が消費税だとすると、最終的に約180万円の消費税還付が1年でうけられる計算になります。
徳田
現金が入ってくるのは、経営する上でめちゃめちゃでかいですね。
小柴
おっしゃるとおりです。でも事前に書類を準備したり、帳簿で管理する方法を決めておかないと還付は受けられません。
たとえば前期に海外Amazonで越境ECをはじめ、こういった対応方法を知らずに決算してしまった場合、前年の帳簿をパッと修正することは出来ないので、本来は受けられるはずだったお金を取り逃す、もしくは修正申告することになります。でも修正申告は税務調査が来るリスクも高めてしまうので、そのリスクに関する社内調整も出てきてしまいます。
徳田
わかりました、ありがとうございます。国内のモールと海外のモールと両方併用している人も、そういった違いがあるから気を付けたほうがいいよというところですね。
小柴
おっしゃるとおりです。
徳田
なるほどなるほど。AmazonやeBay、自社ドメインShopifyなど、色々な越境ECの形があると思うので、ケースに合わせた対応方法を売上がたつ前に相談したほうがいいってことですね。
小柴
そうです。
徳田
もうすでに売上がたっているところは前期の決算で取り逃してしまってる可能性もあるかもしれないけども、今からでも遅くないから相談したほうがいいって感じですかね?
小柴
はい。そういったお客さんかなりいらっしゃいまして。最後にご紹介した「海外Amazonの手数料」に関しては、過去ご相談受けて取り逃している方が結構いたので一度、経理の状況見てどうなっているかを把握したほうがいいです。
徳田
すごい真摯に対応してくれている小柴さんに、僕らの方からも相談できればなと思っています。本日はお時間いただきありがとうございました!
小柴
こちらこそありがとうございました
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文・編集:加納宏徳
監修:公認会計士 小柴健右
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