対談
Interview
この記事を読むことで海外にモノを売る時に知っておきたい国際規約の基本がわかります。
【明倫国際法律事務所 代表弁護士 田中雅敏氏 略歴】
年間200件以上の企業の海外展開を支援する。
海外5拠点を展開、世界45都市に提携事務所。
豊富な経験で中小企業の問題を解決する。
【世界へボカン株式会社 代表取締役 徳田祐希 略歴】
日本の魅力を世界へ伝えるというミッションの元、13年以上にわたり、多国籍メンバーと共に越境EC、海外BtoBマーケティングに取り組む。
越境EC企業の年商を35億→500億、14.7倍の成長を導くなど数多くの実績を残す。
Shopifyマーケティングエキスパート。
世界へボカン株式会社 徳田(以下 徳田)
こんにちは! 世界へボカンの徳田です。
本日は明倫国際法律事務所の田中先生にお話を伺いたいと思います。
よろしくお願いいたします。
明倫国際法律事務所 代表弁護士 田中雅敏氏(以下 田中氏)
お願いいたします。
弁護士と弁理士をやっております田中と申します。
日本だと東京と福岡、海外だと上海、香港、シンガポール、ベトナムのハノイとホーチミンと合計7か所の事務所で、日本企業の海外展開と海外企業の日本展開をお手伝いさせて頂いています。
提携事務所も45都市ほどにあり、日本企業がビジネスをやろうと思うところはだいたいカバーしています。
田中氏
日本では契約書を作らなかったり、作っても一般的なひな形をダウンロードして終了なことがよくあるかと思います。
「海外は何でいつも契約書、契約書と言うんですか?」
「いつも通りやりますよ」
「ネットでダウンロードしたものをGoogleで英語にしたので大丈夫です」など様々な方がいらっしゃいます。
しかしこれらは本当に辞めた方が良いと思っています。
まず事例をお話します。
日本の地域商社であるA社がシンガポールのバイヤーさんとの間で契約を結ぶことになりました。
地域の産品を紹介し、日本の商品を色々売ってくれるので良い話ですよね。
社長同士が会って意気投合して「ぜひ一緒にやりましょう」とすごく和気あいあいとした感じで話がまとまりました。
その後「契約書を送りますね」と向こうから送られて来ました。
和気あいあいとしてたし普通の契約だろうから別に大丈夫だろうが一応見てほしいと先方が弊社に持って来られました。
しかしこれがひどい契約書でして、無茶苦茶こっちに不利なんですね。
一応こんなリスクあるとお話をしたんですが、こちらからあまり大幅な修正を要求すると気を悪くするかもしれないのでこのまま行きますと言ってそのまま行ってしまいました。
田中氏
どんな契約だったかをお話します。
日本でも色んな法律があり、例えばラベルはこんな風に書かなきゃいけないなど決まってますよね。
この場合シンガポールの法律に準拠したものをこちら(日本企業側)が用意するとなっており、そういうのも含めて何か問題があったら損害賠償も含めて請求しますというものです。
加えて保証期間もすごく長かったり、契約不適合責任も違和感がありました。
契約不適合責任とは、例えば食品をシンガポール側のB社がお客さんに売った後、日本企業側が1年間面倒見てくれといった話になっていて、売れなかったらいつまでも面倒を見るといった内容でした。
検品基準も書いておらず、買主が不適当と認めたものは返品処理をすると書いてありました。
あとこれもよくあるんですが、お客様からの苦情や問い合わせは全てこちらが対応するとなっていたりします。
この場合シンガポールのお客さんから英語で掛かってくる問い合わせを日本企業側で対応できるのかを確認しないといけないですよね。
こういったのが一式ずらっと書いてあり、対応できないのでは?と話をしたんですが、今更なのでこれで行きますとなってしまいました。
何も起きなければいいんですが何か起きたらとても対応できない。
でも契約なので損害賠償請求されるようなことになるのかなと思います。
田中氏
契約とは何のために作るのかの話をしたいと思います。
大きく2つ目的があります。
①紛争になったときの「証拠」
日本だと何か揉めたら裁判所に持っていくものというイメージが強いですね。
そうすると「別に裁判とかに考えてないから」あるいは「信頼できる相手だから契約書いいですよ」ということがよくあります。
だけど本当にそうなんだろうかということを考えていただきたいです。
②約束内容の齟齬を防止する(ビジネスの枠組みの確定)
・お互いがどこまでの権利を持つのか
・どこまでが守備範囲なのか
・どっちがどこまでやるのかの責任範囲
・どこでお金をかけるか
こういったビジネスの設計図に契約書はなりえます。
騙した騙されたといった話は遡って考えると、結局それって決まってなかったという話かすごく多いんですよね。
例えばこちらが送ったものが何か仕様と違う。
あるいはシンガポールで売るとしてこういうデザインは合わないから変えてほしいがお金は払わないと言われた。
これについて「騙された、ひどい」と言うんですがさっきの契約書ならマーケティングの観点からシンガポールではこれは受け入られないという判断をB社がしたことになります。
「検品基準においてB社が不適当と認めた時」と書いているので、それも含めて契約書の中に入ってしまっています。
あるいはそもそもパッケージのデザインやラベルを変える・変えないといった話題も出ていない場合もあります。
シンガポール側は当然変えてくれると思ってる。
日本のほうは日本のままで行こうと思ってる。
話題になっていないので全然合意ができてなかったケースです。
これは騙されたではなく決めてなかったというだけの話なんですね。
国際契約のトラブルは「決めてませんでした」がすごく多いというのを皆さんに知って頂きたいなと思います。
日本だったら最後は揉めたら裁判所で解決しましょうというのもあり得るわけですが、海外ではなかなかそれは難しいところもあります。
田中氏
海外で揉めた時、日本で裁判をやって判決を取り、勝ったとします。
それをシンガポールで執行できるかというと基本的には難しいんですね。
シンガポールの場合できなくもないんですが非常に難しい。
相手にお金を払えと裁判を起こすなら相手の財産を最後は執行しないと回収できません。
その場合は相手の国で裁判をするか国際商事仲裁裁判という裁判じゃなく仲裁という枠組みを使います。
仲裁は裁判所ではなく色んな仲裁人(弁護士、裁判官、学生、ビジネスパーソンなど)を立て、裁判のような形で最終的に仲裁判断を下す。
この判断は裁判と同じような執行力があり、ニューヨーク条約に加盟してるほとんどの国では執行ができる建て付けになってますので、だいたいこういう形で紛争を解決することが多いですね。
田中氏
では仲裁を使えばいいんじゃないかと思われるかもしれませんが費用的な問題があります。
例えばでシンガポール仲裁や裁判をすると、訴訟費用だけですぐ1000万以上かかる可能性が十分あります。
アメリカはさらに高いですね。
もしかしたら弁護士に依頼されたことがある方はご存知かもしれませんが、日本の揉め事の場合は着手金が◯%、報酬が◯%って決まっています。
少なくとも1000万請求して弁護士費用が2000万になることはありえないわけです。
ところが特に英米法の国:アメリカやイギリス、イギリス連邦の国(マレーシア、シンガポール、香港、オーストラリアなど)は基本的に時給制です。
安い人でも5万円~、高い人だと20万などです。
例えば5万円の人が100時間働いたら500万円ですから、あっという間に大きな額に行っちゃうんですね。
勝っても負けても100万円の裁判でも関係なくその時給が適用されるので、非常に高く費用的に難しい部分があります。
仲裁は仲裁でお金がかかります。
裁判は若干お金払わなきゃいけませんが、あまり高いお金は普通払いません。
それは税金で運営されているからです。
仲裁は全部当事者の利用料で運営しますのでそんなに安くはない。
1000万の裁判ならやるだけ費用倒れになるので少額のECとかだと泣き寝入りが基本になってしまいます。
だからこそ、何もかも全部細かく決めてなるべく何か問題があっても請求をしなくてもいいスキーム作っておく。
今後また疫病が来てこんな風になったらどうするかも最近は決めたりします。
先ほどのパッケージデザインの変更やその国で使える添加物などの表示問題の適合性はいかにもありそうな話ですし、箱がちょっと潰れていたらアウトなのかセーフなのかもよくありそうですよね。
こういったことをちゃんと書いておくのが基本になります。
徳田
お互いが想定していなかった、または相手側が意図的にそういうのを組み込んでいて、こっち側はその国では素人なため負けることが多々ある。
そのため専門家に相談しないと網羅的にカバーできないですよね。
田中氏
そうですね、ポイントがあるので自社の商品はこういったもので、こういうところが大事というのは教えて頂きたいんですが、一般的にどんな商品ならここがだいたい問題になるという色んなノウハウもあるので、カバーできるかなと思いますね。
田中氏
日本の場合だったら商慣習や「普通こうでしょ」とかありますよね。
しかし海外だとそもそも相手の国と商慣習が実は違うかも知れない。
違う常識を持ってるかも知れない。
違う考えかも知れない。
共通の価値観や常識を持ってない人同士が約束をするので、お互いきっとこうだろうではなくちゃんと書くことによって
「そういう風に思ってたんだ、それは勘違いだった」
「じゃあそこはちょっと調整しなくちゃいけませんね」
ということが当然出てくると思うんです。
国際契約のポイントは共通の商慣習や常識を持ってないかも知れないという前提でしっかり書いていくことです。
田中氏
コロナの関係で不可抗力を感じた企業様もいらっしゃるかと思います。
例えばロックダウンされたら商品出せなくてもしょうがないと思うんですが、日本みたいに自粛されてると「自粛なんだから商品作れるだろ」と言われるかもしれません。
今コンテナがすごく少なくなっていて海運がすごく乱れており、運送に時間がすごいかかっています。
そういった影響で納品が間に合わない時に、例えば「コンテナがなかなか確保できないというが、3倍払ったら確保できるかもしれないじゃないか。お金で片付くことをケチってやらないお前のせいだ」と言われるかもしれません。
そういったことが実は結構クローズアップされているんです。
条文にはよくありがちな「こういう場合は責任負いません」というのを書いています。
テロ行為、火災、洪水、津波、地震、核事故など書いているんですが、台風を抜いてみました。
これでもし台風が来て船が止まってしまい、納品間に合いませんでしたという時、不可抗力条項で免責されるかとなるとそうとも言い切れないんですね。
ここに「その他当事者の合理的な支配の及ばない理由により」と書いてあり、台風は合理的な支配が及ばないわけですから当然ここに入るだろうというのが日本人的な考え方ですね。
それで救済される場合もあると思いますが、例えば相手の国が台風が来ない国だと想定してないかもしれません。
あと例えば英米法的な考え方だと意識的除外に該当すると言われる可能性もあるんです。
つまり「日本人だから台風来るの知ってたでしょ」
「それを書けたでしょ、書こうと思ったら」
「でも書かなかったんでしょ」
「それは意識的に除外したわけだから台風は免責されないってことですよね」
という解釈をされる可能性もあるということなんです。
田中氏
実際にあった事例なんですが、アフリカの東岸のスーダンから豆をハンブルグまで運び納品しますという条件(CIF条件)になってたんですね。
しかしスエズ動乱が起きてしまってスエズ運河が通れなくなっちゃったんです。
これは間に合わないし不可抗力だということで免責を主張したんですが、裁判になり売主のほうが負けてしまい、「距離は4倍ぐらいあるけどハンブルグまでは南アフリカ、喜望峰回っていけば着けるでしょ」と不可抗力じゃないという裁判になりました。
徳田
下から回って行く訳ですね。
田中氏
当然輸送費用も変わってくるため同じ金額で出せません。
海は繋がってますが現実的には無理じゃないかという話なんですが、だったらそれ書きなさいよというのがこの考え方なんです。
これは実際にあった裁判例なんです。
なので想定できる話はしっかり決めて書いておくというのがとても大事な事例です。
田中氏
もうひとつ日本でもいくつかあります強行法規というのがあります。
契約書にいくら書いても法律に反してるから無効になりますといったものです。
例えばライセンス契約とか代理店契約など一定の契約がよくあるんですが、登記や登録をその国でしないといくら当事者間が合意してサインしても効力がなく、例えば送金ができないこともあったりします。
インドネシアは言語法という法律があり、インドネシア語が契約書に書いていないと効力がないという法律があります。
しばらく前に法務大臣が海外との契約についてはインドネシア語じゃなくてもいいと言ってたんですが、それで作った外国とインドネシア企業との契約に基づいて裁判を起こしたらインドネシア最高裁まで行き、裁判所がインドネシア語じゃないから無効という判決を出し、確定してしまいました。
インドネシアとの契約は一応インドネシア語を併記するというのが大事です。
あと代理店保護制度も結構あります。
代理店契約をしてもらったが代理店の動きが悪いため解除した時、解除するなら補償しなければならないなど法律で決まっている国も結構あったりします。
アメリカなんかもそうですね。
あとライセンス料の上限も決まっていたりします。
ライセンスを結んで商標を使っていいがその代わりライセンス料10%を徴収するとと契約をしたとします。
例えばそれをライセンス契約登録が必要な国で登録しようとしたら本来はそういう機能じゃないはずなのに行政機関が「10%とか高すぎるから登録認めません」とか言われることがあるんです。
そうなると5%に変更しなければならなかったりするのでこのあたりも知っておいてほしいです。
しかしすべてを知っておくのは大変なので「この国ではこれで大丈夫ですか?」と1回弁護士に聞いて頂くと良いかと思います。
徳田
弁護士かつこういった判例を知ってる人や専門家じゃないとわかんないですね。
田中氏
そうですね。
うちの事務所も全世界の法律に精通しているわけではありませんが、冒頭申し上げたように提携事務所のネットワークがあります。
そのため「こういうことで何か強行法規で無効になるものはないですか?」などをピンポイントで現地に確認するのはやらせて頂いています。
徳田
なるほど。
大きなビジネスになればなるほど平等な契約書はないと以前田中先生に教えて頂きましたが、どちらかが有利な契約書になっているはずなので確実にチェックをして頂いた方がいいですよね。
特に商慣習が違うというのはまさにそうだなって思いました。
田中氏
そうですね、それはぜひおすすめします。
田中氏
最後に契約締結交渉の話です。
よく「交渉であまりシビアなことを言ったら気を悪くするからしない」
「こちらの案なのでしっかりした条件を相手に出したら何でこんなの出すんだと怒られた」
「弁護士のせいだ」とか言われることあるんですが、ちょっと落ち着きましょうとお伝えしています。
海外といっても一括りにはできなくて、アメリカなどシビアな交渉が当たり前な国もあれば台湾とか東南アジアだと日本にちょっと近い感覚の国もあったりします。
そのため一概には言えないんですが基本的にこちらの要求はMAXまず出すというのが基本です。
それで相手から言われたものについて修正していけばいいという考え方ですね。
気を悪くするかも知れないから言わないでおこうという感覚は基本的にまずやめたほうがいいと思います。
あと契約書を作るのが大変だから相手が出してくれるのを待ってますという場合もあるんですが、シビアな交渉ではどっちが叩き台を作るかで
またシビアな交渉をしたりするぐらいです。
叩き台を作れるということはそれだけこちらのペースで進められるということだからですね。
これは自前で用意をするというのが基本かなと思います。
契約書を作るというよりもまず交渉の段階からしっかり目的意識を持ってやって頂くといいかなと思います。
田中氏
最後に契約締結交渉の注意点です。
これは交渉なので先ほどお話したようにちゃんとMAX要求し、ダメなものは削っていくんですが、
・絶対確保しなくちゃいけない条件
・できたらいいなという条件
・そもそもダメな条件
・言うだけ言ってみようという捨て駒
とちゃんと分けて頂きたいんですね。
この絶対条件を割るんだったら契約しない、ゴールは動かさないというのが基本です。
ズルズルやっているうちにひどい契約になることもありますので、時には捨てる勇気も大事です。
ただ、通常は目標条件のどこまで達成できるかで契約をするということが基本でしょうし、その時に捨て駒については間違って合意したときに譲るためのカードとして入れておくこともあります。
こういった打ち切り線を見ながら自分が取れるリスクと取れないリスクを分けて交渉していくということも姿勢としては大事かなと思います。
徳田
特に海外と取引が大きくなればなるほど契約書を必ずまかなければならない。
こちらのひな形でできるだけ用意する、もし難しいのであればしっかり先生にチェックして頂いてどのラインは譲れないのか明確にしておくというところがすごい勉強になりました。
本日は貴重なお話頂きありがとうございました。
田中氏
ありがとうございました。
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