対談
Interview
この記事を読むことで伝統工芸品を製造する企業が海外に挑戦すべき理由がわかります。
【南部鉄器工房及富 菊地 海人氏 略歴】
岩手県奥州市の南部鉄器の家業を継いで7年目。
オンラインショップも活用し海外の顧客へ商品を届ける。
SNSでも精力的に南部鉄器の魅力を発信する。
【世界へボカン株式会社 代表取締役 徳田祐希 略歴】
日本の魅力を世界へ伝えるというミッションの元、13年以上にわたり、多国籍メンバーと共に越境EC、海外BtoBマーケティングに取り組む。
越境EC企業の年商を35億→500億、14.7倍の成長を導くなど数多くの実績を残す。
Shopifyマーケティングエキスパート。
世界へボカン株式会社 代表取締役 徳田祐希(以下 徳田)
こんにちは! 世界へボカンの徳田です。
本日は1848年より岩手県奥州市で南部鉄器を製造販売する南部鉄器工房及富の菊地様にお話を伺いたいと思います。
よろしくお願いいたします。
簡単に自己紹介をお願いします。
南部鉄器工房及富 菊地 海人氏(以下 菊地氏)
岩手県奥州市で創業1848年、今年で174年目になる株式会社及富の菊地海人と申します。
よろしくお願いいたします。
私は家業として父が専務、叔父が社長兼代表をしております。
私の父と叔父の代で現在7代目になります。
30を超えてからいろんなきっかけもあったんですが、皆さんご記憶の通り東北の震災がありました。
地元のため、生まれてきた家業でその環境において自分たちが自分が何ができるか、どういったことを世の中に貢献できるかを改めて考えました。
結婚などの人生の節目の中で30を超えてからこの仕事に入りまして今年で7年目になります。
私としては職人という仕事だけではなく、広報や商品のデザイン、いろんな業種の方と意見交換をしながら及富の南部鉄器のこれからの未来をどいうふうに変えていけるかを日々考えて仕事をしております。
よろしくお願いいたします。
徳田
菊地さんのTwitterで「今日発送する南部鉄器はこちらです」というのを見て、こんなに南部鉄器って流通してるんだと知ったのをきっかけにお声がけさせていただいたので、情報発信すごくうまくいっていると思います。
菊地氏
ありがとうございます。
徳田
南部鉄器ってどういったものなんでしょうか?
菊地氏
歴史が400年と言われていますので南部鉄器の由来でいうとお話が長くなってしまうので、ざっくりと解説します。
岩手県で作られた鉄器は伝統工芸品と指定されて南部鉄器という総称になります。
産地として2大産地があり、まず県庁所在地である盛岡市。
こちらが旧南部藩のお殿様が鋳物の産業を起こしたということで南部鉄器の発祥です。
私たちが作っているところはそこからさらに南で、ほとんど岩手県と宮城の県境のところにある岩手県奥州市です。
奥州市は伊達藩仙台藩でもっと歴史を遡ると約900年前に奥州藤原氏による鉄器の起こりがあると言われております。
この岩手県の2大産地が藩が変わって岩手県になった時に、これからは南部藩の南部鉄器と岩手県南の南部鉄器2つを総称して南部鉄器でやりましょう、といった歴史がございます。
徳田
南部鉄器は世界的にも人気で我々のお土産物屋さんのお客様とかでも南部鉄器取り扱われているところもあります。
今御社でも海外向けのサイトを展開されていると思うんですけど、なんで海外向けにビジネスを展開されようと思ったんでしょうか?
菊地氏
弊社としては私のひいひいおじいさんが1954年にアメリカ進出と言っていたことがあったらしいんです。
結構歴史を遡るんですが、ヨーロッパ地方の方が日本の文化に対して関心のあるお客様が多いです。
そのため弊社としては約30年ぐらいヨーロッパの国際展示会見本市に出展する機会があり、そうやって長く続けていった結果どんどん認知も広がっていって海外でも人気が出てきたという経緯があります。
コロナの影響もありここ2年間はほぼ展示会もなくなりましたしそこで引き合いもストップしています。
しかし個人のお客様から需要は変わらずあると思ったのでちょっと仕掛けていこうと現在に至ります。
徳田
もともと1950年以降からBtoBの取引はたくさんあり、ヨーロッパを中心に取引があったがコロナをきっかけに越境ECの形でtoC向けにビジネスを新たに展開されているってことですね。
徳田
南部鉄器は今世界的に流通されていて、岩手県産でない海外製の南部鉄器といったものが流通していることもあったりすると思います。
そのあたりもやろうと思ったきっかけになったりしてるんですか?
菊地氏
そうですね、展示会にここ10年近く出展していく中でどんどん人気も出てきたため真似するところももちろん出てくるわけですね。
我々が出しているブースの隣にそっくりさんがいたり、私たちが展示した新商品が翌年には「なんか似てるな」「色、形がちょっと違うな」というようないわゆるコピー製品がどんどん出てきている印象でした。
法的なところではやっぱり追いつかないところもありました。
今までだとBtoBという形で海外のお客様から引き合いがあり、それを受けて送るという形でした。
そのため物としては南部鉄器のイメージがあるんですけど、形だけではなくて中身の部分、どういった歴史があるのか、どういう背景があるのか、どういう使い方をするのかをコンテンツとして発信しきれていませんでした。
我々がヨーロッパがどこがどこだかあまり区別がつかないのと同じように、アジア圏じゃない方からすればアジアは全部一緒でしょって見方も絶対あります。
その中で私たちがやってる世界感っていったい何なのかを改めて自分たちから発信したいといった経緯があります。
徳田
伝統工芸品を取り扱う企業様って東南アジア製品の類似品で悩まされてしまう、真似されてしまうことがあると思います。
やっぱり情報発信をして歴史やどういう人がやってるかを含めて伝えていかないと最終的なアウトプットだけで判断されてしまうところがあるので、そのあたりで英語での情報発信が必要ってことですね。
菊地氏
そうですね。
徳田
海外からも引き合いが増えてきていて、英語のサイトを作っているといるんですよね。
南部鉄器を海外に出して職人さんを応援する意味合いもあると思います。そのあたりいかがですか?
菊地氏
これは国内外問わずなんですが基本的に先ほどお話ししたよう、にお客様の需要に形だけでお答えすることが商売として当たり前になってきた実感が長かったんですね。
そうすると我々職人はお客様にどういう形で届いているのかもわからなくなってくるのでニーズもよくわからなくなってきます。
間に問屋さんがいらっしゃってそこでBtoB取引の中で流通していくとなると、お客様の声を拾いきれなかったり偏りすぎてしまったという反省がありますね。
流通を任せっきりであったことによって実は職人の自信も喪失していくんです。
あと利益率も我々としてはあくまで受け身になりすぎてしまう、つまり交渉も難しくなっていくので、トータルでいくと業界として疲弊する原因にもなってきた感覚があります。
国内・海外向けとも自分たちが直接出すことによって職人の生活改善や雇用改善にもたぶんつながっていきますし、なにより「俺たちが世界に向け発信してんだぞ」という自信って何事にも代えがたいことじゃないかなと思いますね。
徳田
今までのBtoBの取引でも海外には販売できていたものの、直接販売でなかったのでお客さんの声や反応も得られなかった、そのためものづくりの改善になかなかに生かしきれなかったんですね。
直接お取引することでお客さんの声がダイレクトにフィードバックが来て、1日に作れる量が限られている中職人の方たちもモチベーションアップしたり、流通をダイレクトにやることによって利益率が上がっていき待遇改善になる。
菊地氏
そうなんです。
徳田
利益率を改善することで職人ってこんなに稼げるんだとか、職人ってこんなに意義のある仕事をしているんだという認識が持てて、若者たちも職人って良いのかなって思ってもらえるかもしれないですね。
菊地氏
徳田さんが今回良いなと思っていただいたのと同じで、どこかの若者が「あれ?こういう道もありなんじゃないかな」というような可能性を少なくとも感じていただきたいです。
南部鉄器なんて仮に発信していたとしてもそんなに売れてないんじゃないかなというイメージってまだまだあると思います。
しかしいいねいっぱいついてるなとかバズってるじゃんってなるとちょっと見え方が変わってくるかと思います。
決しておじいちゃんおばあちゃんが好むもの、昔からのものを昔ながらに使うだけのものではないという夢を感じていただけるのがなにより一番の方法かなと思いますね。
徳田
そうですね、菊地さんのTwitterを見ていると喜ばれている方の声をたまにリツイートされたりしてるじゃないか?
必ずしもおじいちゃんおばあちゃんだけじゃなくて日本の若い方たちも及富さんの南部鉄器が手に入って嬉しい、これでお茶飲むの楽しみってつぶやかれているのを見ていて結構裾野が広がっているんだなって感じたんです。
菊地氏
そうなんです。
ここ2、30年でだいぶ変わりましたね。
購入層としては平均年齢20ぐらいは下がってもう平均年齢30代前半ぐらいまでになっているかもしれません。
徳田
国内でも情報発信することで南部鉄器の裾野も広がりますし、海外に対してしっかり情報発信することで自分たちのブランドを認知していただく、商品の背景にあるストーリーや歴史を知っていただき日本の本物の南部鉄器を手にとっていただくという意義はすごくありますよね。
徳田
今回Shopifyで越境ECを立ち上げられたかなと思うんですが随所に工夫がされていますね。
上部に南部鉄器の写真があってすごい美しいですし、下部に南部鉄器を実際に作っているシーンが動画で出されていますよね。
あのあたりはどういった工夫や考えでやられていたんですか?
菊地氏
やはりだいたいこういうシルエットでこういう感じの持ち手がついているとプロダクトの形だけはもう世界的に認識はされているんですよ。
ただやはり人ですよね。
どういう人が作っているのかといった血の通った部分は私たちが歴史を語るうえではすごく説得力としてほしいものだと思います。
そこをしっかり見せたいなというところで出していますね。
徳田
動画のオープニングの門を部分とかかっこいいですもんね。
菊地氏
ありがとうございます。
あの門もいろんなところに由緒があるんです。
実は天皇陛下が昔ご視察にいらした時がありその時にをお迎えした門なんですよ。
徳田
そうなんですね。
あとサイト内に職人の方が顔を出されているページもありますよね?
皆さん取り組まれている良いシーンが切り取られてるなって思いました。
菊地氏
ありがとうございます。
こんな若い人がやってるんだねという声を結構いただくんですよ。
やっぱりイメージって作務衣とか着た状態でやられてるようなイメージだと思うんですが、老若男女問わず多種多様な方が職人として取り組んでるんだというリアリティが出せて良いのかなと思いますね。
徳田
確かに若者が職人を目指すところでどういった職場か、どういったストーリーかも感じていただけるという点はすごい意味があると思います。
世界に対して南部鉄器を手に取った時に語れるストーリーがあるというところがすごいですね。
特にヨーロッパだとそういったストーリーを重視し、ただただ安かろう悪かろうじゃなくストーリーを含めて価値として見て買ってくださってると思います。
そういうところを発信していくというのはすごく重要ですよね。
菊地氏
まだ実装してないんですけども今後南部鉄器の歴史について書かれた本の権利を今回取得したので、英訳してご購入いただいた方にデータとしてお渡しする予定です。
宮本武蔵の五輪書とか禅、葉隠や武士道など、英語圏でちゃんと認知された文化やすごく人気が出たものはバイブル的なものが結構セットだなと思っています。
それと同じように南部鉄器の書のようなものを今回セットとして配布しようかなとなっています。
そうするとより沼にはまっていただけるかなと思っており、通常ものを購入しただけで終わるところをより深く深く掘っていただければなという試みをこれからやっていく予定です。
徳田
なるほど、良いですね。
ひとつ南部鉄器を購入してその歴史や書物を見ていただけたらさらにこの南部鉄器の魅力を知っていただけて、もっともっと違う形も欲しいって思ってもらえますよね。
菊地氏
本を情報として出すということは、やがて私たちが直接発信するだけではなく受け取った人たちがまた語り部になってくれるということです。
今時だと情報の拡散という言い方になりますが、私としては語り部という言葉が良いなと思ってます。
むかしむかしという話が今でも通じている、自分たちの心の中にどんどん残っていく。
そういう風景がどんどん共有されていけば文化としてはより実りのある取り組みなんじゃないかなと思いますね。
徳田
なるほど、ストーリーとともに提供することによって語り部が増えていってさらに欲しくなる人が増えていく。
すごく良い循環ですよね。
徳田
結構伝統工芸品や日本産の商品は真似されてしまうのでそれを危惧されている方って多いんですよ。
我々の方でマーケティングをして頑張れば頑張るほど類似品が出てきたりするというのがあって、どうブランディングしていこうかというのは結構課題だったりすると思います。
ストーリーを含めて提供していくというのはひとつのソリューションとしてはあるかもしれないですね。
菊地氏
模倣品でいうと日本国内でも昔から贋作として鉄瓶出てたっていう歴史もあります。
これは海外に出展している時に焼き物をやってらっしゃる社長さんにお話を伺ったことがあるんですが、真似されるぐらい良いものを作っていると思いなさいというお言葉をいただき、私は非常に感銘を受けましたね。
真似されないようにディフェンスしてる暇があったら最先端を走り続けましょうというお話をいただきまして私は非常に勇気をいただきました。
徳田
なるほど、確かにそうですね。
菊地氏
相手にしなきゃいけない数はとてつもなく多いです。
であればそれよりも濃い情報を提供したり、どれだけ自分たちがリーダーシップをとっていくかという心構えでいくことを大事にしたいと思っておりますね。
徳田
最後に同じように伝統工芸品を製造販売されていてまだ海外に挑戦されてない、越境ECにこれから挑戦する方に対してメッセージや挑戦することの意義を教えていただいてもよろしいですか?
菊地氏
いろんな状況っておありだと思うんですよ。
コロナの中で非常に苦しんでらっしゃる企業さん、工房さん非常に多いと思います。
私たちもそうでした。
自分たちがECなどを立ち上げるときってどうしても完璧にスタートしなきゃいけないと職人たちって結構考えがちだと思うんですよ。
100%の状態でこれだったらもう海外展開いけるという状況で出すとなると費用と時間がめちゃくちゃかかります。
とにかくまず始めてみることがやっぱり大事なのかなと思います。
特に私たちが作っているサイトもそうですけれども、実際に公開してそれで終わりではなくて、そこからお客様の反応を見ながらどんどんアップデートしていく、情報もどんどん追加していくことになります。
製品と同じように完成して終わりということではないです。
お客様に届いて初めて伝わるストーリーが我々メーカーとお客様との間で紡がれていくことと同じことだと思うので、とにかくまず第一歩を踏み出す。
徳田さんのようなご支援をいただける強力な助っ人もいらっしゃると思うので、そういった方に相談をしながらまず挑戦をしてみてほしいです。
非常に怖いとは思うし見極めは必要だと思いますが、少なくとも徳田さんは信頼できる方だと思いますので、ちょっと困ってるんだけどというようなところからでも何かお話できると何かできるんじゃないかなと思います。
日本の工芸品、ものづくりというのはまだまだこれから戦いだと思いますのでぜひ一緒に頑張っていけたら良いなと思います。
徳田
ありがとうございます。
今迷われている方の勇気づけになったなと思います。
本日は貴重なお話いただきありがとうございました。
菊地氏
ありがとうございます。
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