対談
Interview
この記事では、ライフタイムバリューを高める方法や事例についてご紹介します。
【株式会社WACUL 代表取締役 垣内勇威氏】
データ分析から改善提案や成果の測定といったAIが支援するツール「AIアナリスト」を生み出す。
3万サイトと超の分析により顧客を成功に導く。
【世界へボカン株式会社 代表取締役 徳田 祐希】
日本の魅力を世界へ伝えるというミッションの元、13年以上にわたり、多国籍メンバーと共に越境EC、海外BtoBマーケティングに取り組む。
越境EC企業の年商を35億→500億、14.7倍の成長を導くなど数多くの実績を残す。
Shopifyマーケティングエキスパート。
世界へボカン株式会社 徳田祐希(以下:徳田)
こんにちは、世界へボカンの徳田です!
本日は、「LTV(ライフタイムバリュー)の罠」という書籍を出版されたWACULの垣内さんに、ライフタイムバリューを高める方法や事例についてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします!
株式会社WACUL 代表取締役 垣内勇威氏(以下:垣内氏)
株式会社WACUL代表の垣内と申します。主にデジタルマーケティングのコンサルティングや、そのコンサルティングを自動化するシステムを作る会社をやってきました。
これまで、定石シリーズと呼ばれる「デジタルマーケティングの定石」、「BtoBマーケティングの定石」という偉そうな本を書いてきましたが……今回はさらに偉そうなタイトルで、「LTV(ライフタイムバリュー)の罠」というデジタル以外の領域にまで口を突っ込む本を書かせていただきました。
今日はその内容についてお話できればと思っております!よろしくお願いいたします。
徳田
「LTV(ライフタイムバリュー)の罠」とのことですが、何故これを書こうと思ったんですか?
垣内氏
元々はデジタルマーケティングの話から始まっているのですが、デジタルってすぐコンバージョンとかCPAと言うじゃないですか。CPAが良くなった・悪くなったなどと言っていますが、「あれ、間違ってるな」と思っています。データが見えすぎるが故に、セッション単位といいますか、お客さんが来たときに買うか・買わないかばかりを気にしていますが、無茶苦茶な視点なんですよね。
デジタルの場合、営業が通うよりも安くお客さんに接触し続けることができます。一度WEBサイトを作ってしまえばそこでずっと接触できますし、無料でメールを送ることができます。顧客接点という意味で言うと、営業やテレビCMなどよりもデジタルのほうが遥かにコスパの良い施策なんです。そのため、中長期でお客さんと会い続けるようなことにこそデジタルを使うべきであると以前から思っていました。
デジタルというとついデータビジネス暗記視点になってしまいますが、そこを変えたいんです。ここ数年、ライフタイムバリューやカスタマージャーニーを、全体を俯瞰した上でデジタルでどう使うべきかというコンサルティング案件を受けることが続いていました。その知見が貯まったので、ライフタイムバリューを伸ばすために何をすればよいのかというテーマで本を書こうと思った次第です。
徳田
なるほど……。
確かに、ラストクリックだけ見てCPA最適化をしていると、実は未来のコンバージョン(成約)を失っていて、ビジネスをシュリンクさせてしまっていることが多々あります。これは海外でも結構あるんです。
ですので、その視点は勉強になりそうで楽しみです!
徳田
第1章は、ライフタイムバリューには顧客視点と企業視点があるという話でしたが、このあたりをもう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか。
垣内氏
ライフタイムバリュー、日本語は顧客生涯価値と言いますが、一般的に「一人のお客様の生涯において、いかに企業が利益を取れるか」といったイメージだと思います。しかし、顧客視点で見ると、「ひとつの企業から一人のお客様にどれだけの価値を提供できたか」と捉えることもできると思うんです。
垣内氏
ライフタイムバリューを考える上で、生涯付き合っていくわけですから、どちらか一方の視点だけでは足りないと思うんですよね。企業がどれだけむしり取ろうと思っても顧客視点で価値がなければ意味がないし、一方で、顧客視点で価値があるからといっても儲からなければ続きません。
そのため両方の視点を持っていなければならないと常々思ってるのですが、どうしても企業視点で「なんとか囲い込んでやるぞ」みたいになってしまう点が、ライフタイムバリューという言葉の罠なのかもしれません。
徳田
サービス提供側からすると、囲い込みとかどれだけ継続していただくかとか、満足してるかどうかは別として「どれだけ課金してもらえるか?」という視点になりがちですよね。
垣内氏
そうですね。
LTVというと企業視点では「とりあえず定額のサブスクにしてやれ」とか「解約しづらくしてやれ」となりがちで、それだけだと生涯の価値と言うには短期視点すぎるのではないかと思います。
徳田
なるほど。
今回の書籍は、使えないデータはゴミだとか妄想四天王だとか、「こんな言い方して、これ大丈夫なのかな!?」と思いながら読んでいたのですが、なかでも妄想四天王の話がものすごくおもしろかったです。
ライフタイムバリューの視点について、失敗のもとになってしまう妄想四天王について解説いただけますか。
垣内氏
どうでも良い話ですが、僕、ファイナルファンタジー4の四天王が好きすぎて、4だったら四天王だと思いノリで名付けたのですが、
①会員プログラム
②会員アプリ
③サブスク
④メディア
の4つです。
①会員プログラムについては、帯にも書いてある通り、ゴールド会員なんて誰もうれしくないよという話です。結構反発を招いていますが、会員プログラムがすべて悪だとは思わないものの、お客さんが求めていない会員プログラムが多々あるんです。
たとえば僕の場合、歌手のaikoさんが好きなんですが、ファンクラブのゴールド会員になれたらすごく嬉しいです。こういったケースなら良いのですが、店舗には全然興味がないのにたまたま大きな物を買ったからゴールド会員になってしまうことがあるかと思います。1回しか買ったことのない冷蔵庫のメーカーで、冷蔵庫を10万円で買ったのでゴールド会員です、囲い込んでも良いですか、と言われても、たまたま大きな買い物をしただけなのに戸惑ってしまいますし、特典を確認しても、ポイントが1000円分だけ貯まっていたり、どこにでもあるようなクーポンが並んでいる程度だったりします。
垣内氏
企業視点で「ゴールドと言っておけば囲い込めるだろう」などと考えているような安易な会員プログラムが多いんです。そこに警鐘を鳴らしたいと思いました。
②会員アプリについては、結局スマホの1画面の中に置けるアプリの数なんてそもそも少ないですよね。LINEのような、普段からよく使うものと並ぶくらいの頻度で使われるくらいに気に入ってもらえないといけません。ファンとかお客さんを囲い込めそうだからと会員アプリを作りがちですが、そんなものをホーム画面に置くのは元々ファンだった人ぐらいです。
他にも③サブスク、④メディアと、私がお客さんと接している中でどうしても企業視点になってしまうと感じた4つを四天王と呼んでいます。
徳田
おそらく、社長同士で「うち、サブスクでうまくいってて」「会員プログラムでうまくいってて」といった会話をして、うちもやったほうが良いのではないかということで部長などに指令が入り、よくわからないけどサブスクが始まったり、よくわからないけど会員プログラムが始まったりと、そういう企業の体質というか、体制が見え隠れしますよね。
垣内氏
そうですね。
あと、ライフタイムバリューを伸ばせと言われても漠然としすぎて何をすれば良いかわからないんですよね。
お客さんと接点をたくさん持とうという話になり、できるだけお金を出し続けてもらうような形にしようとなると、結局、サブスクや会員プログラムといった方向に走りがちです。
徳田
これ、経営者やマネージャー職、経営企画あたりがやりがちなミスなので、そういう方々に見ていただけると良いかもしれませんね。
垣内氏
そうですね。経営企画はもちろん、マーケターもそうですし、場合によっては宣伝や広報、さらには営業、工場など、幅広い方々にとってテーマになってくるのではないでしょうか。
ライフタイムバリューを気にせずにビジネスはできませんからね。刈り取り、刈り取りと言っても、これだけ人口が減少している中で、どんどん新規顧客を獲得するのは難しいです。国内のマーケティングを考えるのであれば、いかに1人のお客さんを大切にして長く価値を提供し続けるかを考えざるを得ないと思いますね。
徳田
先ほどから話にあるように、顧客視点が欠如してしまい企業視点だけの四天王のような施策になってしまいがちですが、どのようなアプローチでライフタイムバリューを高めていけば良いのでしょうか?
垣内氏
とても大きい話からすると、全体改造ではなく部分改善からと思っています。
カスタマージャーニーやライフタイムバリューについて議論すると、全部変えてしまいたいと思いがちなんです。その方が楽ですから。そうすると、お客様の行動を全部変えてやろう、囲い込んで顧客との接点全部を埋め尽くしてやろうという発想になり、先ほど出てきたように、会員アプリを作ったり会員プログラムを作ったりして囲い込んでやろうという施策になってしまいます。
しかし、全体改造をしても、お客さんは思い通りに動かないと思うんです。会員プログラムを作っても、その会社のことばかり考えてもらえるかというとそうでもなく、たとえばアイスクリームの会員カードを作ったとしても、他のアイスクリームだって食べたいですよね。お客さんは自由ですし、勝手に商品を選ぶわけですし、その会社だけに囲い込まれるわけではありません。1社に取り込まれているようなことって、楽天経済圏ぐらいではないでしょうか。他にはあまりありません。
垣内氏
カスタマージャーニーを全体改造して、自分のところだけに染めたいということが、そもそも顧客への冒涜ですし、ありえないことだと思っています。
ではどうすれば良いのかというと、部分改善です。お客様は自由に生きていて、自社の製品やサービスと日々接しているわけですが、その中で、ちょっとした違和感や、なんとなく気持ち悪い、スムーズではない、不快だと感じる、細かい部分的なボトルネックがたくさんあり、調査しているとすぐに出てきます。これらをちょっと良くしてあげるだけで、ものすごくライフタイムバリューが伸びることがよくあります。
本書では、ちゃんと顧客の行動を点検し、ボトルネックを潰す部分改善を特におすすめしています。ライフタイムバリューに向き合うときの手法として最適であるという考えです。
徳田
囲い込むという視点ではなく、今ボトルネックに引っかかって離脱している人たちを減らす方が、実はライフタイムバリューを高めることができるということですね。
垣内氏
その方が実践的ですね。ライフタイムバリューという雲をも掴むようなよくわからない指標に対して向き合って、施策をすべて地引網にかけるようなやり方は、無理筋ではないかと思っています。
徳田
確かに。
さきほどのaikoさんの話じゃないですけど、こちらが本当に好きだったらそういった囲い込みも嬉しいですが、そうでなければ別に求めてないよねということですよね。
垣内氏
いろんなアプローチがあると思うんです。テレビCMを死ぬほど投げたら認知が上がって好感度も上がるような、そういう古典的なマーケティングもあるので、それも良いと思います。
しかし、広く多くの会社で適用でき且つ実践的なもの、さらに、それが具体的にアクションに落ちやすいものとなると、部分改善からやっていくのをおすすめしたいという、そういう気持ちを込めて書いてあります。
徳田
部分改善といっても、いろんなことができるかと思うのですが、体系的にどのようにやっていけば良いとか、まとまっているのでしょうか?
垣内氏
この本ではMASTというフレームワークを用意しています。meet、attract、sense、tradeの頭文字をとってMASTです。
これは私が経験則的に作ったものですので、これですべてというわけではないのですが、ここ数年間ずっと顧客調査をして何千人と見てきた中で、「ここで詰まっている」というポイントはどんな会社でも共通しているんですよね。それがこの4つではないかということで、まとめたものになります。
徳田
MASTについて、4つがそれぞれどのようなものか、簡単に教えていただいてもよろしいですか?
垣内氏
・meet
英語で出会うという意味ですが、最初に出会うまでのハードルが非常に高いケースがあると思います。例として、リッツカールトンにいきなり泊まるのはハードルが高いですよね。宿泊費も高いですし。でもラウンジでコーヒーを飲んで世界観を楽しむようなところから始めたりすると、エントリーしやすくなります。出会うまでのハードルを下げていくというのが、meetというボトルネックの改善です。これは新規購入なんかに近い話になりますね。
垣内氏
・attract
これは惹きつけるとか魅了するといった意味で、すごく良い商品を作って魅了しろということですが、良い商品・良いサービスを作っているのに、それがお客さんに全然伝わっていないことが非常に多いんです。ですのでここでは、魅力づけするというよりも、ちゃんと伝えるということをやりましょうという話を多く書いています。
垣内氏
・sense
ライフタイムバリューというからには顧客と生涯付き合わないといけない中で、多くの企業は、一度買ったりお会いした後は放置したままというケースが非常に多いんです。しかし、生涯でお客様の状況が変わっていって、困っていたり、商品を買いたいと思っていたりというニーズや状況を検知(=sense)できるような顧客接点づくりと検知の仕組みづくりをやりましょうという話になります。
・trade
tradeについては、商売と言いますか、もっと売れ、営業しろという話です。日本の企業では、お客さんは満足していて企業のことを気に入っているにも関わらず、売り逃していると言いますか、ちゃんと提案しておすすめすれば買ってもらえるのにそこを行っていないという機会損失が発生していることが多いです。そこを押しましょうという話になります。
だいたいこの4つ、MASTのどこかのボトルネックで、ライフタイムバリューが損なわれていることが多いと思ってます。
徳田
海外向けのBtoBマーケティングを行ってるときも、その商品のスペックだけ伝えていて、それが本当にattractとして伝わってるのか疑問に思うことがあります。お客さんは課題解決がしたいので、そことスペックとは紐づかないんです。顧客の解像度が低いためにちゃんとattractできていないことがあったり、そもそも日本のお客さんと海外のお客さんではattractする部分が違うので、なぜこれを訴求しているのかが不明瞭なこともあります。また、僕らもお客さんに1回サービスを提供したときに満足していただいたのに、そのあと接点を持たなかったために次のサービスを提供する機会を逃していることもあります。
たしかに、MASTの4つに当てはまることが多く、なるほどと思いました。
このMASTに関しての事例を書籍でも見ることができるのでしょうか。
垣内氏
そうですね。事例は大量に書いてます。もともと具体例からこの4つに分類しているので、具体例は大量に書いています。
徳田
今日の話をまとめると、今回の書籍には
・ライフタイムバリューには企業視点と顧客視点がある
・企業視点で囲い込みをしがち
・部分最適でボトルネックを解消すると結果的にライフタイムバリューが伸びる
・MASTという視点で改善していくことができる
といったことが書かれているということですね。
垣内氏
まとめてくださりありがとうございます!
徳田
とても良いと思います!
次の動画では事例についてもっと細かくご説明いただこうかと思うのですが、BtoB、BtoC両方の情報が入っていて、自社でLTVをどうやって伸ばすかがわかりますし、上長がサブスクやれと言ってくるときに説得するための共通言語や共通認識を持ってもらうための情報としてもとても良いと思いました。
本日は貴重なお話いただきありがとうございました!
垣内氏
ありがとうございました!
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